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先人たちが苦労して手に入れた建物への愛着 vs 耐震補強の必要
店子(たなこ)が入居している建物が地震等で何かあった際、建物の所有者には責任が問われることもあるかもしれません。オーナーとしてはとても気になる問題です。
組合が出来て間もなくの頃に建てられたという「渋谷たばこ商業協同組合」のビルは、まさにそのような不安を抱えた建物でした。
先人たちが苦労して手に入れた建物であるゆえに愛着もあり、また、きちんと守っていくべきと考えていた現理事長は、2011年3月11日に東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)が生じた際にビルが大きく揺れて事務員が非常に危険を感じたということがきっかけとなって、改修についてより真剣に考えるようになったそうです。
古くなったために「建て替えたほうが早いのでは?」という考えもありましたが、周辺が住宅地で現行の建築基準法による高さや容積率の条件・限界を考えると、同規模のビルを再び建築できるとは限りません…。それゆえにどのように現在の建物を維持し、使い続けるかが重要であると考え、改修・補強によって建物を保全していくのが良いと現理事長は判断しました。
他の理事たちとともに「建設委員会」を設立し、「どのような工法が良いか」「できるだけ工事費を安く抑えられる方法はないか」と検討していた当初は「柱の巻きたて」「壁の新設」「増し打ち」が提案されて話が進みました。ところが震災以降に人件費や材料費、工事費が高騰しているという業者の状況ゆえに、見積りでは予算を大幅に引き上げてしまった結果に。もう一度工法の選択から見直して予算内で改修・補強できるようにする必要が生じたのです。
そんな折に、あいおいニッセイ同和損保から一般社団法人レトロフィットジャパン協会を紹介され、建物から退去せずに工事できるという「居ながら施工」を始めとする様々な特徴、そして予算内に収まる工事金額の提示などがあり、JSPAC耐震工法(外付けタイプ)を採用し、結果として無事に改修・補強を実施することができました。
過去に見てきた様々な改修工事では、窓が閉鎖されてしまったり、室内でとても圧迫感があったりというケースの工法が多かったものの、このJSPAC耐震工法(外付けタイプ)では施工後の外観にも違和感がなく、部屋の中にも影響がなく、それゆえに部屋の使い勝手が変化してしまったり面積が狭くなってしまったりすることもなかったとして、想像以上に素晴らしい結果だったと理事長は語ります。
改修・補強することにより、建物に新たな「売り」が一つ出来るとともに、店舗の募集時にも耐震補強が実施済みであることから家賃を相場よりも下げずに済むなどのアドバンテージも生まれ、また、構造面でしっかり対応したために今後の建物の維持管理費は設備更新などを中心とした少額で済ませられそうであるというメリットも嬉しいところ。
愛着ある建物を、外観や使用感を変えることなく耐震補強し、しかも集客面でもメリットを生み出せる…。「レトロフィット」の新たな取り組みが、こうして渋谷でもすでに始まっているのです。
H.F
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