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増加傾向にある国内旅行の需要。観光庁のデータでは平成27年度7月~9月の日本人旅行者数は宿泊旅行客だけでも1億915万人で前年同期比13.4%増と素晴らしい数字を出している。もちろんこれに伴って国内旅行に使用された消費額も6.5兆円、前年同期比14.8%増と消費額も伸ばしている。

旅行好きな筆者も、過去に訪れた観光地に再度訪れた際に、店の混み合いや宿泊施設の埋まり方などから旅行者数が増えているように感じた。

とにかく多くの旅行者が国内のさまざまな観光地に赴いているのだが、実際に調べてみたところ、そんな中でも旅行者が減少してしまっている場所があるようだ。

それは熊本や福島や新潟などの大きな災害に見舞われてしまった地域とその周辺だ。

 

旅館・ホテルの選択リスク「もし宿泊中にまた地震が起きたら?」

ただしここで重要なポイントは、宿泊施設が倒壊してしまったから観光者が減ったという単純な話では決して無いということだ。

どういう事かというと、地震後、「建物自体には全くもって問題はない」と診断された旅館であるにも関わらず、「もしまた地震が起こったら?」「もしもこの旅館やホテルが地震の影響で脆くなっていたら?」という心理的な不安が観光客の心に生じているということ。筆者の周辺でも、「それなら被災していない他の観光地に」と、選択に影響している声を聞く。

2013年に「耐震改修促進法」が執行されたことにより巨大地震を想定した耐震診断をうけ、旅館やホテルも地震に耐えうる耐震補強工事を受けなければならなかった。これはもちろん被災地及びその周辺においてもそうだった。

ところが、数字としての耐震性能及び旅館・ホテルの改修工事と、旅行者の受け入れやすさとの間に少しズレが生じているのだ。

この「ズレ」を理解すると、それらの法案に則って仮に耐震補強工事が行われていたとしても旅行者数が減ってしまうということに納得の行く説明がつく。

 

「耐震診断・耐震補強済み」は旅館・ホテルも明示すべき

結局のところ、耐震補強や耐震工事が行き届いていたとしても、耐震診断によって「問題なし」と正式に判断されたとしても、旅行者がそれらの旅館やホテルが一定水準の安全性を満たしているというその結果を知らされていないのだ。

細かい話を言えば、「安全です」「問題ありません」とは明言できないかもしれない。震度7という地震に対して倒壊しないという建物はありえないから。しかし、営業面で言えば、被災地付近でもそうでない地域でもハード面での状況や条件は同じ水準を満たしているのに、観光客は不安と先入観から判断してしまう。

もしかしたら大きな地震に見舞われたら本当に危険な旅館やホテルがあるのに、その地域では「まだ」大きな地震が生じていないという理由で不安には思わないという人が少なくない。逆に、大きな地震が生じた地域付近において、診断して問題なしとされているにも関わらず、旅行者は不安を抱いている。

そう考えると、公平に見て、診断結果や対策した事実については、知らされなければ意味がないのである。少なくとも観光客にとってはそうなのだ。

法案によって改修工事は必要性が強調され、実際に対策はしているかもしれないが、そこから先が少し足りていないのだ。

要するに、「安全対策は実施しています!」というアナウンスが無いために、旅行者からするとその旅館やホテルが「万全な状態で営業している」のか「奇跡的にたまたま建物が生き残ったという状況で営業している」のかがわからず、リスクを避けることを議論し始めるのである。

 

耐震工事をしたのであれば、安心のために知らせて欲しい

これは、災害に見舞われた地域で宿泊する旅館やホテルを決める旅行者の観点から、とても重要なポイントではないだろうか?

「当ホテルは耐震補強工事済みです」「当旅館は耐震改修を行い災害対策や避難経路確保もこのように取り組んでいます」ということがしっかり伝わってくれば、それは旅行者にとって何よりも心強いのだ。

ところが、それがないのである。対策しているにも関わらず、そうした公表をしていないケースが少なくない。

旅行者の命を守る大切な工事を実施する事はもちろん大前提であるが、法によって求められている工事を「実施した」というだけでは、離れた観光客を呼び戻すのは難しい。一旅行者の立場から、少なくとも筆者はそう感じる。

災害による旅行者の減少の背後にある心理的な要素を考えるならば、復興後に改めて営業を行っている被災した観光地において、旅行者の心を掴むにはもう一歩踏み出して欲しい。

「耐震対策済み」という明示こそが、きっかけであり、鍵なのだから。

 

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