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建物の耐用年数を表す方法について国交相をはじめとする様々な機関・団体によって議論が繰り広げられています。

例えば国税庁では法定耐用年数を、木造の住宅なら22年、鉄筋コンクリート等の住宅なら47年と定めています。

これはあくまで税法上の「減価償却資産の耐用年数」であり、建物が実際に「使用に耐えうる期間」ではありません。

例えば国や水道事業者は配水池から家庭や工場まで送る上水道の「排水管」の法定耐用年数について、地方公営企業法の施行規則で定められている「40年」というのが、その効用が持続する期間(=寿命の目安)ととらえています。

場所や環境によって実際の物理的寿命は多少異なる結果になるかもしれませんが、そのような資産の種類は画一的に定められていても特に問題にはなりませんが、しかし建物についてはそうとも言えません。

 

税法上の耐用年数は「建物の寿命」ではない

そもそも「耐用年数」という表現が与えるイメージは、その建物を「使用できる年数」と考えるのが自然です。「法定」という言葉が付帯することによって「法で定められている、建物を使用できる年数」と考えてしまうのも無理のないことです。

これが大きな誤認を生み出すことがあります。つまり、法定耐用年数が過ぎると、一律その建物には価値がなくなる、という。

しかし、その建物に価値があるかどうかを決めるのは、実際には物理的特性と経済的効果であると言えます。より強靱に建てられた建物であれば、そうでない建物よりも価値があると考えるのは誰にとっても妥当なことでしょう。

 

「耐用年数」という言葉には種類を設けるべき?

平成25年8月に発表されている国土交通省の資料によると、耐用年数を「経済的耐用年数」「期待耐用年数」「物理的耐用年数」と分けて表現することが提言されており、

建物の価値を大きく左右する要因の1つが建物の耐用年数であるが、現状の評価実態では、建物の状態・機能にかかわらず、一律に築後20〜25年で建物の市場価値がゼロとなる慣行があり、築30年以上の取引事例が増加している実態と合っていない。明らかに建物の価値が向上するリフォーム(設備の定期更新など)も価格に反映されないことが一般的。

と説明されています。

つまり、物理的には法定耐用年数を大幅に超える耐用年数を有するのに、売買価格としては「無価値」になることがナンセンスであるということです。

 

昭和20年代に定められた規定がいまだに有効って、おかしくないですか?

国税庁が公表している「税法上の減価償却制度の沿革-耐用年数を中心とした一考察-」では、「減価償却について税法上明確に規定がなされたのは、太平洋戦争後の昭和22年に行われた法人税法の全文改正時」であると明記されています。

これはすなわち、現行の慣習は古い技術や記録に基づくものであるということです。

昨今、建物のオーナーも、利用者も、建設業者も、そして国も、この慣習が実態に沿っていないということに気付いていますが、現時点で有効な「法的根拠」となる基準を定める方法がありません。

例えば、コンクリートの寿命はある程度実験で算出・設定できても、コンクリートの「建築物・建造物」となるとその仕様は千差万別なので、寿命はここに異なり、それを一律・画一的に定めることは難しいでしょう。

それで新たな耐用年数の法的規準を見定めることには限界があります。

鑑定評価では「経済的残存耐用年数」という言葉があり、評価する建物が経済的に価値を有するのはあと何年かということを示すようにしています。

 

物理的耐用年数から期待耐用年数を定める「残存耐用年数」

これからの時代、建物の利用価値を算出する上で必要となるのは、①物理的耐用年数と②期待耐用年数から機能的な性能の耐用年数を算出し、最終的な③経済的耐用年数として評価することです。

中古の建物の場合、新築時から経過した年数を差し引いた「残存耐用年数」に、これらの算出根拠が含められることが重要でしょう。

そのための最初のステップとして、既存建物の物理的な耐用年数をどのように数値化するか、という大きな課題が生じます。

近年注目されているのは、建物が持つ固有の振動数が経年変化によって低下していくという物理現象を元に建物の健全性を評価する技術です。

良質の建物を正しく評価して長く生かし、スクラップ&ビルドからストック&リノベーションへと変革していくためには、そのような技術が求められるんですね。

 

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