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ビルオーナーや管理者は、建物を利用する人々の安全面を考えて、大地震で倒壊しないように耐震補強が必要であることを知っています。

ところがそれがなかなか進んでいないということは、病院、旅館やホテル、行政庁舎、商業ビルやマンションなどにおける関係する報道や行政の広報活動などによって、表面化させられていることも。

必要だとは感じていても取り組むことができないということは、なかなかクリアできない課題が存在するとも言えます。

では、どんなハードルを乗り越えなければならないのでしょうか。

 

そんな簡単に退居できない!

住人や利用者が居る建物を耐震補強しようとするなら、長期的な「退居期間」が生じてしまいます。

入院・通院患者がいる病院、オールシーズン稼働している旅館やホテル、多くの世帯が入居して居るマンション、多くのテナントや企業が入っている商業ビル。

そのどれも、工事中には建物が利用できない/退居しなければならないとなると、それによる損害は建物のオーナーだけでなく利用者にも及びます。

 

やはりコストの問題は大きい

資金が潤沢にあるオーナーの建物であれば良いのですが、診断や調査、計画や設計、工事期間中に止まってしまうビジネスの負担、利用者の退居に関わる費用補償、耐震施工・工事など、掛かる費用は莫大です。

各自治体でも補助金の制度はありますが、申請するだけでも様々な知識やスキルが求められます。診断結果が出ないと補助金を得られないものも多いのですが、診断して結果が悪いとわかった以上は必ず対策が必要となりますから、診断そのものに進むことに躊躇してしまうことも。

確実なファイナンスの手立てが必要になります。

 

狭くなる? 使いにくくなる? 建物の仕様

近年は方々で耐震補強済みの建物を目にするようになりました。よく見かける事例として、大きな開口部には巨大な鉄骨のブレースがクロスして設置され、窓を塞ぎ、部屋は狭くなり、利用者の動線も変わってしまったというものもあります。

耐震補強の多くは既存の壁と柱では耐えられないところを補完するという考え方ですから、開口部や空間を潰してでも建物全体としての耐力を確保しなければなりません。

一方で使いやすさを犠牲にしなければならないわけですね。

 

特殊な形の建物は耐震補強が難しい

耐震補強が必要とされる比較的古い建物には、こだわり抜いたデザインと空間づくりで利用者や近隣からとても愛着を持って親しまれているものも少なくありません。

広いピロティーや大きなガラス窓、由緒と歴史を感じさせる外観、美しい屋根。こうした建物は入居の如何にかかわりなく、建物そのものの保存という意味で「そのまま」に残して欲しい、これまで通りの使い方をして欲しいということも。

もし鉄骨ブレースなどの利用などによってこうした外観が大幅に変わってしまうとすれば、もちろん安全性の観点からはやむを得ないのですが、もっと良い耐震工法はないものかと探し始めます。

 

周辺住人への影響も考えて

耐震補強工事中は、大型重機使用時の振動や資材搬入のための騒音などで近隣に迷惑が掛かってしまうことは避けられません。敷地が狭く作業スペースが確保できない場合には建物外での作業においても隣接する敷地に多大の協力を求めることになります。

騒音、重機利用による二酸化炭素排出、作業場所の確保など、周辺環境に対して配慮を示そうとすると耐震工事そのものが実質的にハードルの高いものになります。

 

こうした耐震補強を実施したいと考えるビルオーナーは実際に増えていますが、こうした課題をクリアしなければ前進することができないということで悩んでいる方も少なくありません。

事情に通じている利用者は、オーナーに対して耐震補強を求める一方で、自らも退居によるコストが掛かるということを憂慮して、敢えて「この話題に触れない」という歪んだ状況も生み出しています。

それゆえに、退居せずに「居ながら」できる耐震工法、ファイナンス力のあるサポート、建物の意匠性を維持できる耐震設計が早急に求められているんですね。

 

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